特集/コラム
【コラム】2003-01-30
2003年のデパ地下のゆくえは?〜デパ地下別ブランド展開の大成功
2003/01/30
2002年の5月末、TVチャンピオンの「デパ地下グルメ女王」選手権に出演した際、銀座三越での取材中、ちょうど地下1階に改装工事中の一画がありました。広報ご担当の方が、今度新たにオープンするのは、グラマシーニューヨークの会社と三越が共同して新しく作ったブランドだと教えてくださいました。「ケーキも、芸術家の名前などを冠したとても独創的なものなので、楽しみにしていてください」とのお話。当時、「グラマシーニューヨーク」といえば、ジェイアール名古屋タカシマヤを拠点に、2001年10月に新宿タカシマヤにもオープンしたブランド。私も注目していたので、その会社が関わっていると伺い、とても気になりました。それが、5月28日に銀座三越にオープンした「GIOTTO DE LAVIERGE(ジョトォ)」でした。
このショップは、「アートに国境がないのと同じように、世界のあらゆる感性を取り入れアートをスイーツで表現する」というコンセプトに違わず、「プティタミ(恋人)」というケーキは、ホワイトチョコのムースをろうそくに見立てたもの。「ビル」というケーキは、ラズベリー・オレンジ・レモンライムの3色のムースをそれぞれゴマのチュイールで巻いてミニチュアのアイスクリーム風に仕立て、ブリュレに刺したものと、見た目も名前もこれまでに無いようなケーキがずらりと並び、まずは驚くばかり。「フェデリコ」はイタリアの名映画監督フェデリコ・フェリーニから、「マティス」は画家のアンリ・マティスでしょうか。様々な想像力をかきたてられるセンシティブなショーケースの前には、いつも人だかりができ、あっという間に銀座三越の人気ショップの一つとなりましたね。
その後、8月8日に東京大丸でも、ニューヨーク風のスタイリッシュなケーキ店「キース・マンハッタン」がニューオープン。こちらは、「マンハッタンプレミアムチーズケーキ」などの濃厚なNYチーズケーキをはじめ、「A TRAIN」というゴマムースと豆乳プリンのデザートや、ブランマンジェにきなこと黒豆をトッピングした和の情緒たっぷりの「ゼン・スウィーツ」など、これまた特徴のある品揃え。グラマシー・ニューヨークで限定発売をしている人気のニューヨーク・チーズケーキや、杏仁豆腐にマンゴープリンなどチャイニーズデザートとの比較も、面白く感じていました。
以前は、洋菓子の老舗店といえば、フランス菓子の流れを汲むところが中心だったと思いますが、こんなスタイリッシュな新風が吹き込んでいることを新鮮に感じていたところ、たまたま、グラマシーニューヨークやGIOTTO DE LAVIERGEを経営しているのは、名古屋三越にある「ラビアージュ」というお店と同じ会社だと聞きました。そこでは、各百貨店とブランド提携してそれぞれオリジナルショップを出店しているということ。そう言われてみると確かに、GIOTTOの正式名称には、「ラビアージュ」の名がついていますし…。
気になって色々と調べてみたところ、噂どおり、3つのショップとも「株式会社プレジィール」という会社が経営しているということがわかりました。その母体は、「丸信製粉」という、90年以上にわたって製粉業を続けてきた会社。代表取締役の安井健富氏の言葉をご紹介すると、「小麦粉は幹。そこから麺や菓子、パンといったさまざまな枝が伸び、葉を広げ、大樹として成長していきます。私どもはしっかりとした幹を作るのが仕事。しかし、木は幹だけでは大きくなれません。」とのこと。一見華やかなこれらの事業展開は、小麦粉という原料のみの世界にとどまらず、その加工製品である洋菓子作りを自ら経験し、ノウハウを蓄積することで、対メーカーへの原材料供給の面でさらに有効な提案をしていこうという、前向きな姿勢の表れだったのです。 株式会社プレジィールは、現在、以下のような洋菓子ブランドをデパ地下で展開しています。
●グラマシーニューヨーク
ジェイアール名古屋高島屋、京都高島屋、新宿高島屋、横浜高島屋
●ラビアージュ
名古屋三越栄本店、名古屋三越星ヶ丘店
●グランアルティザン
名古屋松坂屋本店、名鉄百貨店(1階)
ラビアージュは、昨年11月に三越栄本店を訪れた際、焼きたてコルネを求めての行列が印象的でした。まるで籠のような網目を透かして、どっさり詰まったりんごが見える美しいアップルパイは、りんごが煮崩れておらず、そのままローストしたような香ばしさ!「パタート」(350円)は、ジョトォの「ポタージュ」を思わせる、さつまいもとグラハムクッキーのケーキでした。名古屋三越栄店のホームページを見ると、このお店自体は、元々、パリに6店舗を有する老舗のパンと洋菓子のお店だそうです。
カフェが併設されていて、優雅なティータイムを楽しんでいる方も多かったですね。ケーキの見た目もかなり前衛的なジョトォやグラマシーに比べ、なじみやすさや気取らない、小さな贅沢感を打ち出している印象です。ケーキのサイズもやや小ぶりで、値段も手頃な印象。クリームチーズとカマンベールをあわせてキャラメルソースをあわせた「フロマージュ」は、何と280円でした!一方グランアルティザンは、時間限定で販売しているベルギー風ワッフルが人気のお店です。この他にも「芝安(しばやす)」というブランドで、本格的なきしめんや味噌煮込みうどんの味が楽しめるお店を、日本橋三越、新宿伊勢丹、名古屋三越栄本店、松坂屋本店、ジェイアール名古屋高島屋、丸栄百貨店、名鉄百貨店にて展開しています。
これまでも、各デパートのオリジナリティを確立するために、専属契約を結ぶ形で出店する洋菓子店はありました。池袋西武とルノートル、新宿小田急とトロワグロなどが、その典型ですね。また、「○○デパートオリジナル商品」を共同開発して目玉商品のひとつとするという動きは、最近では当たり前のものとなっています。銀座三越でペルティエのお惣菜、東武百貨店でミクニの本格的なブーランジェリーなど、同じブランドでも他店では扱っていない物を扱う形で出店をすることも多く、もはや「二番煎じ」は通用しないことを感じさせます。ですが、このように、1つのメーカーがデパートに合わせてブランドを変え、他にはない新しい雰囲気を自在に演出するという方法、これほど明確に打ち出したのは、この会社が初めてではないでしょうか。その意味で、昨年一年間を通してのこちらの会社の躍進は、とても興味深いものでした。
今後、このような形でデパートごとに提携してオリジナルブランドを生み出すようなうねりが、他からも生じてくると面白いと思っています。和菓子の老舗「たねや」から、焼きたてバームクーヘンが人気の「クラブハリエ」が生まれたように、和菓子店から洋菓子店など、意表をつくような展開も興味深いですね。各デパートのバイヤーさんが創意工夫を凝らし、これからのデパ地下がどのように変化するのか、その動きを生々しく感じられることを、楽しみにしています。
■平岩理緒
2002年7月、TVチャンピオン初代デパ地下女王となる。チーズケーキとチーズ好き。お気に入りは、東急フードショー「シェ麻里お」、銀座松屋「タント・マリー」など。目下の目標は、ケーキのデジカメ撮影技術の向上。『東京一週間』デパ地下グルメ鑑定団でも活動中。
幸せのケーキ共和国
このショップは、「アートに国境がないのと同じように、世界のあらゆる感性を取り入れアートをスイーツで表現する」というコンセプトに違わず、「プティタミ(恋人)」というケーキは、ホワイトチョコのムースをろうそくに見立てたもの。「ビル」というケーキは、ラズベリー・オレンジ・レモンライムの3色のムースをそれぞれゴマのチュイールで巻いてミニチュアのアイスクリーム風に仕立て、ブリュレに刺したものと、見た目も名前もこれまでに無いようなケーキがずらりと並び、まずは驚くばかり。「フェデリコ」はイタリアの名映画監督フェデリコ・フェリーニから、「マティス」は画家のアンリ・マティスでしょうか。様々な想像力をかきたてられるセンシティブなショーケースの前には、いつも人だかりができ、あっという間に銀座三越の人気ショップの一つとなりましたね。
その後、8月8日に東京大丸でも、ニューヨーク風のスタイリッシュなケーキ店「キース・マンハッタン」がニューオープン。こちらは、「マンハッタンプレミアムチーズケーキ」などの濃厚なNYチーズケーキをはじめ、「A TRAIN」というゴマムースと豆乳プリンのデザートや、ブランマンジェにきなこと黒豆をトッピングした和の情緒たっぷりの「ゼン・スウィーツ」など、これまた特徴のある品揃え。グラマシー・ニューヨークで限定発売をしている人気のニューヨーク・チーズケーキや、杏仁豆腐にマンゴープリンなどチャイニーズデザートとの比較も、面白く感じていました。
以前は、洋菓子の老舗店といえば、フランス菓子の流れを汲むところが中心だったと思いますが、こんなスタイリッシュな新風が吹き込んでいることを新鮮に感じていたところ、たまたま、グラマシーニューヨークやGIOTTO DE LAVIERGEを経営しているのは、名古屋三越にある「ラビアージュ」というお店と同じ会社だと聞きました。そこでは、各百貨店とブランド提携してそれぞれオリジナルショップを出店しているということ。そう言われてみると確かに、GIOTTOの正式名称には、「ラビアージュ」の名がついていますし…。
気になって色々と調べてみたところ、噂どおり、3つのショップとも「株式会社プレジィール」という会社が経営しているということがわかりました。その母体は、「丸信製粉」という、90年以上にわたって製粉業を続けてきた会社。代表取締役の安井健富氏の言葉をご紹介すると、「小麦粉は幹。そこから麺や菓子、パンといったさまざまな枝が伸び、葉を広げ、大樹として成長していきます。私どもはしっかりとした幹を作るのが仕事。しかし、木は幹だけでは大きくなれません。」とのこと。一見華やかなこれらの事業展開は、小麦粉という原料のみの世界にとどまらず、その加工製品である洋菓子作りを自ら経験し、ノウハウを蓄積することで、対メーカーへの原材料供給の面でさらに有効な提案をしていこうという、前向きな姿勢の表れだったのです。 株式会社プレジィールは、現在、以下のような洋菓子ブランドをデパ地下で展開しています。
●グラマシーニューヨーク
ジェイアール名古屋高島屋、京都高島屋、新宿高島屋、横浜高島屋
●ラビアージュ
名古屋三越栄本店、名古屋三越星ヶ丘店
●グランアルティザン
名古屋松坂屋本店、名鉄百貨店(1階)
ラビアージュは、昨年11月に三越栄本店を訪れた際、焼きたてコルネを求めての行列が印象的でした。まるで籠のような網目を透かして、どっさり詰まったりんごが見える美しいアップルパイは、りんごが煮崩れておらず、そのままローストしたような香ばしさ!「パタート」(350円)は、ジョトォの「ポタージュ」を思わせる、さつまいもとグラハムクッキーのケーキでした。名古屋三越栄店のホームページを見ると、このお店自体は、元々、パリに6店舗を有する老舗のパンと洋菓子のお店だそうです。
カフェが併設されていて、優雅なティータイムを楽しんでいる方も多かったですね。ケーキの見た目もかなり前衛的なジョトォやグラマシーに比べ、なじみやすさや気取らない、小さな贅沢感を打ち出している印象です。ケーキのサイズもやや小ぶりで、値段も手頃な印象。クリームチーズとカマンベールをあわせてキャラメルソースをあわせた「フロマージュ」は、何と280円でした!一方グランアルティザンは、時間限定で販売しているベルギー風ワッフルが人気のお店です。この他にも「芝安(しばやす)」というブランドで、本格的なきしめんや味噌煮込みうどんの味が楽しめるお店を、日本橋三越、新宿伊勢丹、名古屋三越栄本店、松坂屋本店、ジェイアール名古屋高島屋、丸栄百貨店、名鉄百貨店にて展開しています。
これまでも、各デパートのオリジナリティを確立するために、専属契約を結ぶ形で出店する洋菓子店はありました。池袋西武とルノートル、新宿小田急とトロワグロなどが、その典型ですね。また、「○○デパートオリジナル商品」を共同開発して目玉商品のひとつとするという動きは、最近では当たり前のものとなっています。銀座三越でペルティエのお惣菜、東武百貨店でミクニの本格的なブーランジェリーなど、同じブランドでも他店では扱っていない物を扱う形で出店をすることも多く、もはや「二番煎じ」は通用しないことを感じさせます。ですが、このように、1つのメーカーがデパートに合わせてブランドを変え、他にはない新しい雰囲気を自在に演出するという方法、これほど明確に打ち出したのは、この会社が初めてではないでしょうか。その意味で、昨年一年間を通してのこちらの会社の躍進は、とても興味深いものでした。
今後、このような形でデパートごとに提携してオリジナルブランドを生み出すようなうねりが、他からも生じてくると面白いと思っています。和菓子の老舗「たねや」から、焼きたてバームクーヘンが人気の「クラブハリエ」が生まれたように、和菓子店から洋菓子店など、意表をつくような展開も興味深いですね。各デパートのバイヤーさんが創意工夫を凝らし、これからのデパ地下がどのように変化するのか、その動きを生々しく感じられることを、楽しみにしています。
■平岩理緒
2002年7月、TVチャンピオン初代デパ地下女王となる。チーズケーキとチーズ好き。お気に入りは、東急フードショー「シェ麻里お」、銀座松屋「タント・マリー」など。目下の目標は、ケーキのデジカメ撮影技術の向上。『東京一週間』デパ地下グルメ鑑定団でも活動中。
幸せのケーキ共和国